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記事詳細

2019/09/19 21:05

「蚊の撲滅」を目的としたブラジルでの「成虫になる前に死ぬ遺伝子操作」を施された蚊の放出実験が大失敗していたことがネイチャーの論文で発覚。遺伝子を操作された蚊たちは数世代で元通りに

2019年9月17日遺伝子操作によるブラジルでの蚊の撲滅実験が失敗したことを伝えるロシアの報道
failure-mosquitoes-gm.jpg

あの計画は悪影響だけ残して失敗していた
ロシアの報道で、「ブラジルで行われていた、遺伝子操作により蚊を撲滅させるプロジェクトが失敗した」という内容の冒頭の報道を見つけました。

これに関しては、2016年から 2017年にかけて、何度か記事で取りあげさせていただいたことがあります。

たとえば、以下のようなものです。

US government approves 'killer' mosquitoes to fight disease
nature 2017/11/06

アメリカ政府は、感染症と戦うために「殺虫蚊」の放出を承認した

アメリカ環境保護庁(EPA)は、デング熱、黄熱、ジカ熱などのウイルスを感染させる野生の蚊を殺すための共通のバクテリアの使用を承認した。

11月3日、同庁は、バイオテクノロジー企業モスキートメート社(MosquitoMate,)に、ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)に対する殺虫ツールとして、昆虫の共生細菌ボルバキア(Wolbachia pipientis)に感染した蚊を自然環境に放出することを許可すると述べたのだ。

研究室で育てられた感染した蚊たちは、野生の蚊の集団にこの細菌ボルバキアを送達することになる。

環境保護庁によるこの決定により、米国ケンタッキー州にあるモスキートメート社は、バクテリアに感染した蚊を全米 20州とワシントンD.C. に放出することが可能となった。

メリーランド大学の昆虫学者ディヴィッド・オーブロッチャ(David O'Brochta)博士は、この決定について以下のように語る。

「この方法は、蚊に対しての非化学的な方法なので(化学的な殺虫剤等を使わないという意味)、その観点からは魅力があるものかもしれない。これらのことは非常に重要なことでもあるので前進していることは嬉しい」

モスキートメイト社は、共生細菌ボルバキアに感染したヒトスジシマカを研究室で回収し、その後メスからオスを分離する。

実験室の蚊のうち人を刺さないオスは処置室に放たれる。そして、これらのオスがボルバキア細菌を保有していない野生のメスと交配すると、父性染色体が適切に形成されないために結果として生じる受精卵は孵化しない。

同社は、ボルバキアに感染したオスの数が増え、野生のメスと交配するにつれて、ヒトスジシマカの生体数が減少するはずだと述べている。

モスキートメイト社の創設者であり、ケンタッキー大学の昆虫学者スティーブン・ドブソン(Stephen Dobson)氏は、蚊の他の種を含む昆虫が、これによって害を受けることはないと述べている。

環境保護庁は、モスキートメイト社のこの製品(商品名「ザップメールズ / ZAP males (オスを消すという意味)」)の放出は、全米のうちの 20州とワシントンD.C. に制限した。

この 20州は、環境保護庁によれば、以前ザップメールズの有効性がテストされたケンタッキー州、ニューヨーク州、カリフォルニア州と同様の気温と降水量を持つ州だという。モスキートメイト社は、圃場(ほじょう)試験を実施しなかったため、蚊の密集した場所が多くあり蚊の季節が長いアメリカ南東部の多くの州は除外されている。

モスキートメイト社はケンタッキー州レキシントンで販売を開始し、そこから近くの都市に販売を拡大する予定だ。 同社は住宅所有者、ゴルフコース、ホテル、その他の顧客と協力してこの製品化された蚊を配備するという。

野生の蚊の集団を防除するためにウルバキア細菌に感染した蚊を開発している別のグループは、ウルバキアに感染した蚊を大量に生産することに成功している。中国広州の孫文大学と、米国ミシガン州立大学の研究者たちは、中国広州で毎週 500万匹のウルバキアに感染したヒトスジシマカを放出していると述べている。

研究室で培養した蚊を使用して蚊を殺すことは近年ブラジルで広範囲に行われている。ブラジル政府は 2015年に始まったジカウイルスの流行に対応して、そのような蚊の大規模な放出を許可している。

ジカは、異常に小さな頭を持つなどの重度の先天性欠損に関連している蚊媒介性ウイルスであり、ヒトスジシマカはの感染の主要な要因として考えられている。

ブラジルで試験されている蚊のタイプの1種類は、英国のオクシテック社(Oxitec)によって開発されたヒトスジシマカの遺伝子組み換え品種だ。改変されたオスの蚊が野生のメスと交配すると、その子孫に死に至る遺伝子を渡すために蚊は死滅する。

オクシテック社は、アメリカで遺伝子組み換え蚊をテストすることに踏み切ったが、昨年のフロリダ州では、このテストに賛成する群と反対する群に割他。

対照的に、モスキートメイト社は、フロリダ州とカリフォルニア州で公衆の注目を集めることなく様々なウルバキア細菌に感染したヒトスジシマカを開発し、テストした。 同社はその蚊をアメリカ全土で放出できるようにアメリカ環境保護庁に申請書を提出する予定だ。


ブラジルでの「遺伝子操作を施された蚊の放出」と、現在のジカウイルスの流行の関係を私が完全に無視することができない理由

2016年3月17日
zika-conspiracy-theories.jpg

上の「陰謀説の突然の広がり」というタイトルの記事は、アメリカのアトランティックという、長い歴史を持つメディアの記事です。

このタイトルにあるように、ジカウイルスに関しての「陰謀論」が広まりつつあり、上の記事はそういう陰謀論について批判的に記しているものですが、どのような陰謀論かといいますと、

「現在のジカウイルスは、人為的に遺伝子操作をされた蚊によって広がった」

というものです。

陰謀論は、いつの世のどんなジャンルにもあるもので、その種類も様々ですが、しかし、アトランティックは、雑誌の創刊から数えると 158年の歴史を誇る老舗のオピニオン・メディアであり、普通なら「くだらない陰謀論」などを記事にすることなどはないはずです。

では、なぜ、このことを取り上げて、そして「陰謀論を否定」する記事を書かなければならなかったかというと、この出来事には「微妙な事情」が含まれているからです。

先に書きました「現在のジカウイルスは、人為的に遺伝子操作をされた蚊によって広がった」という下りの中には、

本当の部分と本当ではないと思われる部分が含まれているのです。

「本当の部分」は何かといいますと、

2015年に、ブラジルに遺伝子操作を施した蚊を放った

という部分です。

それをおこなったのは、オキシテック社(OXITEC)というイギリスにある昆虫の駆除やコントロールをおこなう企業です。ブラジルでのデング熱のコントロールのためにおこなったとされています。

そして、「本当ではない」かもしれない部分というのは、「そのことがジカウイルスがブラジルで大流行したことと関係がある」という部分です。

つまり、オキシテック社がブラジルで遺伝子操作した蚊を放ったことは本当だけれど、それとジカウイルスのブラジルでの流行は関係があるわけではない、ということが冒頭のアトランティックを初めとしたメジャーストリームの意見だと思います。

それらのことを、少し整理して、書いてみたいと思います。

どのように判断されるのかは、人それぞれになると思われます。

デング熱を根絶するためにブラジルに大量投入された遺伝子組み換えされた蚊

もともとは、「オキシテック社による遺伝組み換えされた蚊のブラジルへの投入」なんてことを知っている人など、それほど多くいるわけがなく、もしジカ熱の流行がブラジルで大きく報じられなければ、それを調べる人もいなかったと思います。

しかし、ジカウイルスの爆発的な流行に際して調べた人が出現したようで、reddit という投稿型ニュースサイトに、1ヶ月前に下のタイトルの記事が投稿されました。

そして、ニュースでは、2015年のオキシテック社のプレスリリースの内容を紹介すると共に、その影響の可能性などにもふれていました。

オキシテック社の2015年7月2日のプレスリリースより
oxitec-mosquitoes.jpg

ここのプレスリリースのタイトルに「オキシテック社の作り出した蚊」というのが、遺伝子操作を施された蚊のことで、どういうものかというと、一般社団法人サイエンス・メディア・センター(SMC)が、2015年2月に、ジャーナリスト向けのサイエンス・アラートとして、下のような文章をアップしていまして、その冒頭はこのようなものです。

2015年2月15日のSMCのサイエンス・アラートより

OXITEC社の遺伝子組み換え蚊(GMM)放出計画について:専門家コメント

フロリダ州で蚊を媒体とした感染症を防ぐため、OXITEC社が遺伝子を組み替えた蚊を環境中に放出することを計画しています。

次の世代の幼虫が成虫になる前に死ぬよう遺伝子を組み替えた蚊(Genetically modified mosquitoes 以下、GMM)で、同様の試みはすでに英領ケイマン諸島などで実施されていますが、今回放出を計画している地域では反対運動が行われています。この件に関する専門家コメントをお送りします。


というもので、オキシテック社の遺伝子操作は、

「蚊の幼虫が成虫になる前に死ぬように遺伝子を組み換えるもの」

のようです。

ブラジルで放出された蚊がまったく同じかどうかはわかりませんが、同じデング熱のコントロールの目的のためですので、おそらく同じものだと思います。

遺伝子操作の詳しいことは私にはわかりませんので、「遺伝子操作の是非の是非」はともかくとして、デング熱の拡大に効果があるのかということはわかりません・・・が、下は、 2016年3月3日の報道ですが、「ブラジルで、いまだにデング熱患者が増えている」とあるのを見る限りは、効果はどうだったのかという気もします。

2016年3月3日のウォールストリート・ジャーナルの報道より
brazil-dengue-2016.gif

しかし、デング熱のコントロールの成否はここではともかくとして、ジカ熱、そして、小頭症の赤ちゃんの出生に関して、気になってしまった資料があります。

どうしても「関係」の疑いを払拭しきれない「場所」と「時期」のシンクロ

それは reddit に投稿された「2つの地図」で、それを見ると、「遺伝子操作をされた蚊は、ジカ熱、あるいは小頭症と関係があるのではないか」という思いをどうしても抱いてしまうのでした。

その「2つの地図」というのは、

遺伝子操作された蚊が放出された場所

2015年小頭症の赤ちゃんが生まれた数の分布を示した地図です。


遺伝子操作された蚊が放出されたのは、ブラジルのジュアゼイロ・ド・ノルテ(Juazeiro do Norte)という場所でした。

遺伝子操作された蚊が放出されたジュアゼイロ・ド・ノルテの場所
Juazeiro-do-Norte.gif

小頭症の赤ちゃんが生まれた数の分布
microcephaly-births.gif

小頭症の赤ちゃんの生まれた例の分布図に関しては、明確な時期がちょっとわからないですが、比較的流行の初期のものだと思います。

つまり、「蚊の放出された地域あたりからブラジルの小頭症の赤ちゃんの出生が広まっていった」というような図式になっているのです。

もちろん、何でもかんでも「偶然」ということで済ませられるのなら、上の相関も偶然なのかもしれないですが、

蚊の放出場所からジカ熱が広がっていったように見えること

ジカ熱の流行が始まった時期と蚊の放出の時期がリンクしていること


に、どうしても注意が行ってしまうもののようにも思います。

そう思えてしまう人たちは多いのかどうなのかわかりませんが、英米の一般メディアでもこのことを伝えるものがかつてありました。

米国フォックスニュースより
brazil-dengue-2016.gif

ジカウイルスは 70年近く前には知られていた感染症であり、そして、ブラジルの前にも何度かの流行があったわけです。

なのに、今回の南米の流行だけが「飛躍的に大規模」であるばかりではなく、

小頭症の赤ちゃん
ギランバレー症候群
といった副次的な苦しみがあまりにも多く報告される地獄のような病気となってしまっているような感じがしまして、「どうして今回はこんなことになってしまったのだろう」と考えることがあったからでした。

以前も書いたかもしれないですが、このジカウイルスというウイルスは、「初子を滅ぼす」という意味で、私には十分に黙示録的な存在です。

当時、ジカ熱とデング熱、そして黄熱病やマラリアなどの、それぞれ蚊が媒介する感染症が流行していました。

特にブラジルでは、妊娠した女性が感染すると、お腹の赤ちゃんに障害が出る可能性が高いジカ熱と、高熱と痛みに苦しめられるデング熱が大変に流行していまして、これらの感染症の拡大を防ぐために、

「遺伝子操作を用いて、蚊を根絶する計画」

を実施することにしたのです。

オキシテック社(OXITEC)というイギリスにある昆虫の駆除やコントロールをおこなう企業が、遺伝子操作により、ジカやデング熱を媒介するネッタイシマカだけを撲滅させるプロジェクトをブラジルで行う実験を開始しました。

この遺伝子操作は、

「次の世代の幼虫が成虫になる前に死ぬように遺伝子を組み替えた」

もので、その蚊たちをブラジルに一斉に放出したのでした。

このような遺伝子操作ですので、計画通りなら、この蚊の子孫たちは死に絶えることになります。

ブラジルで放出されたオキシテック社の蚊と通常の蚊の違い
oxitec-mosquito-gm2.jpg

このやり方は、WHO も、世界中の企業に呼びかけていました。以下は、2016年3月の報道からです。

WHOが「遺伝子組み換え蚊」活用を推奨 成虫になれない遺伝子の放出実験求める
産経ニュース 2016/03/19

世界保健機関(WHO)は、ブラジルなど中南米を中心に広がるジカ熱対策で、ジカウイルスを媒介する蚊を抑制するため、遺伝子組み換えの蚊を活用することを推奨する声明を発表した。

生まれた蚊が成虫になる前に死ぬよう、オスの親の蚊を遺伝子操作し放出する実験事業を行うことを求めている。

WHOは声明で「ジカ熱対策には、ウイルスを媒介する蚊の抑制が最も効果的な方法だ」と強調した。


いくつかの組織が、この試みを開始し、中でも英オキシテック社は、ブラジルで大規模な「蚊撲滅実験」を実施したのでした。

実験が成功していれば、ブラジルに放出された蚊と、その子孫は、今はすべて死んでいる「はず」で、その遺伝の繰り返しの中で、ブラジルの蚊は、大幅に減少していた「はず」でした。

ところが、現実には、

「放出された蚊たちは、大繁殖を再開していた」

ことが米イェール大学の調査でわかり、その結果が、9月10日の科学誌ネイチャーに掲載された論文に記されていたのでした。

つまり、実験は失敗したわけで、それどころか、予想外の悪影響の可能性だけを残したということになりました。

論文に書かれた実験は、2013年から 2015年にかけて行われた実験で、本来なら、実験終了後には、放出された蚊の家系はすべて滅びているはずだったものが、実験終了後の 2年以内に、「繁殖状態は元に戻った」ことが調査で判明したことが記されています。

成虫になる前に死ぬように改変された遺伝子を持つ蚊たちは、数世代で、

「その遺伝子が持つ死の運命を自らで変えた」

ということになります。

生命というものは、人間による遺伝子改変で「種としての根本」がどうこうされるものではないということがよくわかる話であり、「生命とは強いなあ」と、つくづく思います。

ふと、「ジュラシックパークみたいだなあ」とも思いました。

琥珀の中の蚊に残る恐竜の血液の DNA から、バイオテクノロジーを駆使して恐竜を現代に蘇らせるという内容の映画ジュラシックパークの中には、蘇った恐竜が「単独で生きのびないように遺伝子操作される」という話が入っています。

生まれた恐竜には、今回のブラジルの蚊に施されたのと同じような遺伝子改変がなされるのです。

本来は体内で作ることができる必須アミノ酸(リシン)を、遺伝子操作で、自分の体内で作ることができないようにして、人間がリシン入りのエサを与えないと恐竜は死ぬようにされているのです。

そのままだと、たとえば、逃亡した恐竜たちは、ただ死ぬだけなのですが、ところが、遺伝子を改変された恐竜たちは、自然の中から必須アミノ酸の豊富に含まれる植物を見出しながら「生きる道を見つけていく」ことになります。

今回のブラジルの蚊も、遺伝子改変された後に、二世代、三世代、次の世代と「生きる道を見つけていった」のだと思われます。

皮肉な話ですが、今の地球では、「絶滅してほしくない昆虫がどんどん絶滅していって」おり、そして、この蚊たちのように、「人間が絶滅を試みている相手たちは、むしろ大繁殖していっている」という図式があります。

それと、問題としては、今回の「蚊の遺伝子に手を加えた」ことが、何か他の「反動」みたいなものと関係してこないだろうなあと思ったりします。

実際、今回ご紹介する記事でも、米イェール大学の科学者たちが、

> 蚊が以前よりも強くなる可能性

を警告しています。

そもそも、ブラジルでジカ熱とデング熱の大流行が始まったのも、オキシテック社が、ブラジルでの遺伝子操作した蚊の放出実験が終わった後からでしたからね。

記事をご紹介したいと思いますが、冒頭の記事はロシア語で、少し翻訳が心許ない部分がありましたので、探してみましたら、ドイツのメディア DW が、このことを英字で報じていました。

その記事をご紹介します。

Genetically modified mosquitoes breed in Brazil
DW 2019/09/13

繁殖しないように遺伝子操作された蚊がブラジルで繁殖中

2013年から2015年までブラジルで行われた遺伝子組み換えを施した蚊の自然界への放出実験の後、それらの遺伝子組み換えされた蚊は繁殖を続けた。研究者たちの当初の想定では、放出されたすべての蚊と、その子孫はすべて死ぬはずだった。

感染症を媒介するネッタイシマカを封じ込めるブラジルでの試みは失敗した可能性がある。そして、遺伝子の変異は、そのまま地元の蚊に引き継がれていっているようだ。

英国のバイオ企業オキシテック社は、ブラジルのジャコビナ市 (Jacobina)で、27週間にわたって、毎週約 45万匹の遺伝子改変したオスの蚊を放出した。この放出の目的は、デング熱、ジカ熱、黄熱病の感染症を制御するためだ。

蚊に対しての、この OX513A と呼ばれる遺伝子改変は、その遺伝子を改変された蚊の最初の子孫の世代( F1世代)が成虫になる前に死んでしまうように設計されていた。つまり、本来は、この遺伝子が引き継がれた蚊は、成虫になれないため、繁殖できない。

実験期間中には蚊の個体数が減少した

ブラジル保健省の希望は、ブラジルの蚊の個体数を 90パーセント減少させることだった。そして、この希望は、実験の実施中にはうまく機能していた。蚊はその個体数を大幅に減少させた。

ところが、実験終了後約 18か月で、蚊の個体数は以前の状態に戻ったのだ。

放出された蚊の遺伝子改変は、最初の F1世代を他の蚊と区別することを可能にする蛍光タンパク質も産生した。

米イェール大学の研究者たちは、放出 1年後、および放出 27ヶ月後から 30ヶ月後の間に、実験が行われた地域で発見された蚊の遺伝的変異を調査した。

調査の中で、研究者たちは、遺伝子改変の一部は、この地域の蚊の群生に移動したという結論に達した。これは予想されないことだった。

この研究は 9月10日に科学誌ネイチャーに掲載された。

採取されたサンプルでは、蚊の 10〜60パーセントがゲノムに対応する変化をもたらした。

当初の予測通りなら、最初に放出された蚊の子孫は成虫になれないために、繁殖することはできないはずだった。そのため、蚊の個体群に遺伝子の改変が移動するという可能性はないとされていた。

ただし、この遺伝子改変 OX513A は、その子孫の約 3〜 4パーセントが成虫に達する可能性があることは、以前の実験室での実験からわかっていた。しかし、科学者たちは、この数値は、現実に遺伝子改変された蚊が繁殖に到達するには弱すぎる数値だと想定し、事実上、繁殖することはできないと考えていた。

批評家たちが討論に加わる

イェール大学の研究チームは、新たに形成されたこれらの個体群の蚊が以前よりも強くなる可能性があると警告している。

ネイチャーの論文の筆頭著者のイェール大学教授のジェフリー・パウエル (Jeffrey Powell)氏は、「今回のこれらの結果は、遺伝子改変の結果として、その生物に予期しない事態が発生していないかどうかを検出するために、放出の際にモニタリングプログラムを実施することの重要性を実証している」と記している。

ブラジルの生物学者、ホセ・マリア・ガスマン・フェラーズ (Jose Maria Gusman Ferraz) 博士は、遺伝子工学への批判をさらに一歩進め、次のように述べている。

「遺伝子改変された蚊の放出は、何も明らかにされずに急いで行われたのです」

遺伝子工学に批判的なドイツ・ミュンヘンに本拠を置くテストバイオテック (Testbiotech)研究所は、十分な研究のない状態で、遺伝子を改変した蚊を放出する野外実験を開始したオキシテック社を非難している。

遺伝子ドライブ技術は使われていない

ブラジルでの今回の屋外試験では、科学界の論争の的となっている遺伝子ドライブ技術は使用していない。遺伝子ドライブでは、蚊は、生殖中に常に支配的な非常に断定的な遺伝子を与えられる。

厳密に隔離された研究所で遺伝子ドライブを実験する研究者たちは、最終的にこの方法を使用して蚊の集団全体を永久に根絶することを望んでいる。

しかし、このような実験で、種を永久に根絶した場合、元に戻すことはできず、したがって、これまで屋外で実際に実施されたことはない。

ここまでです。

記事に「遺伝子ドライブ」という言葉が出てきました。

これは、今年 1月に以下の記事でご紹介したことがある「ひとつの生物種全体を、この世から消滅させることが可能」と言われている技術です。

遺伝子ドライブ - Wikipedia

遺伝子ドライブとは、特定の遺伝子が偏って遺伝する現象である。この現象が発生すると、その個体群において特定の遺伝子の保有率が増大する。

人為的に遺伝子ドライブを発生させることにより、遺伝子を追加、破壊、または改変し、個体群、または生物種全体を改変することができると考えられている。

具体的な応用例として、病原体を運搬する昆虫(特にマラリア、デング熱、ジカ熱を媒介する蚊)の拡散防止、外来種の制御、除草剤や農薬抵抗性の除去がある。しかし、改変された生物を自然環境に放つ行為は、生命倫理上の懸念がある。


救いなし : アメリカの科学者たちが、動物や人間に対しての遺伝子兵器を作った。それはどれほど危険なものなのか?

lenta.ru 2019/01/25
米国カリフォルニア大学サンディエゴ校の分子生物学者が、史上初めて哺乳動物 - マウスにおける遺伝子ドライブのテストに成功した。動物集団において変異遺伝子を増殖させるように設計されたこの遺伝子ドライブという方法は、昆虫に対してのみ試験されてきたもので、哺乳類に対しておこなわれたのは、これが初めてだ。

遺伝子ドライブによって特定の種の数を制御したり、あるいは、ある種を完全に消滅できるようになることが期待されている。

しかし、我々は、この技術がどのようなものであるのか、そしてなぜそれが必要なのか、さらに、この技術が人々にとってどれほど危険なものなのかを述べたいと考えている。

遺伝子のオーバークロック

遺 伝子ドライブの本質は、子孫が特定の遺 伝子を受け継ぐことができる確率を変えることだ。

本来、遺伝子の大部分は、50%の確率で遺伝する対立遺伝子が対となって染色体上に存在している。哺乳類の体細胞には、母親と父親から受け継がれている二組の染色体がある(そのような染色体のペアは相同染色体と呼ばれる)。

精子から変異遺 伝子が体内に入ることがあっても、それが子孫に引き継がれる可能性は 2つのうち 1つだけだ。

自然淘汰は、突然変異が多数の集団となっていくことを助長させる可能性があるが、しかし、このようなことが起こるためには、それが生存の可能性を高めたり、体に有益な変異でなければならない。さらにそれには非常に長い時間がかかる。

gene-drive-inheritance.jpg

しかし、遺伝子ドライブは、通常は引き継がれない突然変異を遺伝させていく可能性を最大 100パーセント高めることができるのだ。

改変された遺伝子がある染色体から別の染色体へと単純にコピーされ、その結果、さらに多くの生殖細胞が子孫に突然変異を受け継ぐ準備が整う。

時間が経つにつれて、ほぼすべてが変更された DNA を運ぶことができる個体となり、その結果、種の 100パーセントが突然変異体となる可能性があるのだ。

このテクノロジーが成功するかどうかは、汎血統の程度(個体が互いに交差しているかぎり)や遺伝子変換の頻度など、さまざまな要因に左右されるが、それでも、約 90パーセントはそうなるはずだ。

遺伝子ドライブは、有害な突然変異でさえ、その突然変異が受け継がれていくことを促進する可能性がある(通常は、有害な突然変異は遺伝していかない)。

これまで、遺伝子ドライブ技術は、昆虫に対しての試験で成功している。

特に蚊の駆除に適用されようとしており、マラリアの蔓延との闘いに使われているとされる。これは、蚊にマラリア原虫を運ぶ能力を奪う遺伝子を注入し、その蚊が自由に彼らの同属種の蚊と交配できるよう、改変された蚊は環境中に放出されることになるだろう。

科学者たちは、野生の蚊の人口の 1パーセントが遺伝子ドライブに暴露されたならば、マラリア感染は 1年以内に打破できると予想している。

誰との戦いなのか

これまでのところ、蚊などの昆虫では遺伝子ドライブが試験されているが、哺乳類で遺伝子ドライブが試されたことはこれまでなかった。

哺乳類の外来侵略生物の被害は世界各地である。最も深刻な被害を受けている国には、他の大陸の哺乳動物の被害が多いオーストラリアとニュージーランドがある。ラット、マウス、オコジョ、ウサギ、そしてポッサムなどの被害が相次ぐ。

彼らは繁殖し、地元の有袋類を追い払い、その食糧供給を弱体化させている。またそれらの動物たちは、植生を破壊し、土壌の侵食と破壊を増やす。

オーストラリアとニュージーランドでは、ウサギの数を減らすための多くの手段を講じてきた。射撃、巣穴の破壊、毒と罠の使用、さらにはフェンス。しかし、これらはすべて失敗した。

そしてここに、遺伝子ドライブという真の生物兵器が登場する。

粘液腫症(ウサギの感染症)を引き起こす粘液腫ウイルスと、ウサギの出血性疾患の原因物質であるカルシウイルスというのがある。この粘液腫は、感染したほとんどすべてのウサギの死亡につながったため、粘液腫の流行は、ウサギの個体数の大幅な減少につながった。

しかし、ウサギがウイルスの免疫を獲得するに従い、感染の流行は終息し、また個体数は増えた。

このウイルスには、ウサギの数を減らすには欠陥があったのだ。このウイルスは、極度に暑い条件でウサギをよく殺したが、穏やかな気候の条件下では病気の症状があまり出なかった。つまり、穏やかな気候は、ウサギに対しての「ワクチン」のような効果となっていた。

ここで遺伝子ドライブが助けとなる。

遺伝子ドライブを使って、ウイルスや農薬へのウサギの感受性を広げ、様々な病気への耐性をウサギから奪い去り、ウサギを死にやすくする。それにより、ウサギの数が無制限に増えていくことを阻止するというわけだ。

システムは複雑

しかしながら、哺乳動物における遺伝子ドライブは、昆虫における試みよりも実施するのが困難であることが証明されている。

今回のカリフォルニア大学の新しい研究では、研究者たちは CRISPR / Cas9 システムというものを使用した。

これは DNA を正確な場所で切断することを可能とし、細胞自体がゲノムの必要な部分を切断してコピーし、損傷を受けた鎖を修復する。ゲノムのこの領域は失われたものと相同であるべきであり、研究者は、同じ遺伝子の 2つのコピーを得ることができる。

科学者たちは、チロシナーゼ(酵素の一種)をコードする CopyCat と呼ばれる DNA 要素を Tyr 遺伝子に挿入することにより遺伝子組み換えマウスを作成した。

結果として、Tyr はメラニンの合成に関与するチロシナーゼの正しいアミノ酸配列をコードすることをやめ、そしてマウスはアルビノ(白化した個体)になった。

さらに、CopyCat は、同種染色体上に位置する無傷の Tyr 遺伝子に対する Cas 酵素を示すガイド RNA を含み、そしてその切断に寄与する。

しかし、CopyCat のコピーで切断された Tyr 遺伝子を「修復」する代わりに、細胞は DNA の末端をさらに切り取って「縫い付ける」ことができるようになり、「個体にとって望ましくない遺伝子の変異」を引き起こす。

どのようなメカニズムが実装されているのかを知るために、科学者たちは、さらに試行をおこなった。

彼らはコピーした Tyr 遺伝子を持つ黒いマウスと CopyCat を交配させ、さらに白化を引き起こすもう 1つの二重突然変異を持つマウスと交配した。

この場合、3つのタイプの子孫ができるはずだ。つまり、アルビノの遺伝子を持つマウスと、無傷の Tyr 遺伝子を持つ黒いマウス、そしてアルビノの遺伝子とトリミングされた Tyr 遺伝子を持つ白いマウス、およびアルビノと CopyCat の遺伝子を持つ白いマウス……が生まれるはずだ。

しかし、科学者たちは胚における Cas9 の活性化時間を変えると、症例の 86%で CopyCat をコピーすることは、メスの胎児の特定の発達段階でのみ可能であることがわかった。

この研究の結果は、外来哺乳類と戦うために遺伝子ドライブを使用することについて話すにはまだ時期尚早であると科学者たちは述べている。

この方法は、昆虫ほど容易には機能せず、厳しい条件への準拠が必要だ。したがって、少なくともある望ましい効果を達成するためには、実験を継続し、そして方法を改良することが必要だ。それは長い時間がかかるであろう。

そして、科学者たちはこれまで、「遺伝子ドライブは遺伝子兵器になる」可能性が高いことを強調し続けてきた。

そのため、開発におけるすべてのリスクを考慮に入れ、環境や人間への影響として考えられる事象を防ぐ必要がある。

この遺伝子ドライブで、本当に、ひとつの種を絶滅させられるかどうかは、実際にはわかりません。実際に行われたことはないわけですから。

しかし、今回の「蚊の復活劇」を見ていますと、そういうものさえ、少なくとも、蚊には通用するのかどうかという気にもなってきます。

なお、最初のほうにリンクしました記事で取りあげましたが、アメリカでも、ブラジルと同じような「遺伝子操作をした蚊を放出する」計画が進行しています。あるいは、もう実施されたかもしれません。

アメリカでも、今後、ブラジルと同じように、「遺伝子操作により、むしろ蚊のパワーが強化される」というようなことが起きないとも限らないかもしれません。

ちなみに、ずいぶん以前の記事で書いたことがありますが、 1億年以上前から、この地球にいて、そしてずっと、

「ウイルスと生物の仲介をし続け」

「生物と他の生物の血液の交換さえなしえている」


という「蚊」という生命が地球上にいる意味は、単なる感染症の媒介者というものを超えたものがあると、少なくとも私は考えています。

蚊が血液を介して生物から生物に媒介しているのは、病原菌だけではありますまい(古い言い回しかよ)。

死をもたらすものと、生をもたらすもの、どちらも蚊は媒介していると私は考えていたりします。

ミツバチが地球からいなくなったら人間は生きられないという説があると同様に、蚊という生命が地球からいなくなったら、多くの生命が生きられなくなるはずだとも考えています。

といいますか、地球の生命の成り立ちを考えれば、不要な生物なんてものが地球に存在するという考え自体がおかしいのでは? という話ではあるとは思うのですが。

最終更新:2019/09/19 21:05

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