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2013/05/14 12:00

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三月:アクアマリン
【海神(わたつみ)】

夫と喧嘩した。
和解する機会を見失ったまま、あの人は中国に出張に行ってしまった。
この際だから私は、自分一人の時間を目一杯楽しんでやろうと決心した。
時間に追われることのない日々、ああ、何て素敵なんだろう!

「この世の人間みんなが、あなたみたいに出来るわけ無いじゃない!」

+++++

妻の私が言うのもなんだけど、夫は仕事の出来る人だ。
長年勤めていたアパレル企業を六十歳で早期退職した後も、色々なところからお声がかかって、今は四社と契約している。
中には海外の会社や、海外と取引のある会社が多く、夫は中国をメインにアジアを飛び回っている。

かといって、仕事人間かというとそうでもない夫は、意外なほど家族想いで、専業主婦の私の手伝いもしてくれる。
でも、合理的で無駄の嫌いなせっかちな夫の事、そう気楽にはいかない。
何でもかんでも、私のやることにはケチをつけてばかり。
手伝ってくれるのは嬉しいけれど、私にだって私のやり方があるのよ!
そう言ったら、「お前のやり方は水道代が、ガス代が、時間の配分が云々」なんてご高説を垂れて下さって、あれよあれよという内に喧嘩に発展してしまった。

早朝に家を出る夫にいってらっしゃいの言葉をかけることもなく、今日の私は十二時起き。
ああ、もうあのうるさい人はいないのね、と伸びをする。
なのに。

(何だか俺、向こうの人に気に入られたみたいでさ。俺みたいにずけずけものを言うのが、良いんだと)

喧嘩前に私の手料理を食べながら嬉しそうに言っていたあの人の顔を思い出して、何だかスッキリしない。
私はもうちょっとずけずけ言わないで欲しいし、もうちょっと優しく言って欲しいし、…。

そう、あの人は、あの人は、あの人は、って。
ようやく一人になれたのに、昨日の喧嘩を引きずって、頭の中はあの人への苛立ちばかり。

「…決めた!今日全部吐き出しちゃおう!」

枕元の充電器からひったくるようにケータイをとって、私はある番号にかけた。

+++++

「また喧嘩したのぉ?」
「だって、過干渉なんだもの。私は子供じゃなくて妻なのに!」

呼び出したのは、最近家を出て一人暮らしを初めた娘。
うちには息子と娘がいて、二人とも独立している。
特にこの娘は夫が一番手をかけて面倒を見てきた子で、夫の良いところも悪いところもよく分かっている。
私の相談相手としてはこれ以上無い適役なのだ。

息子は優しくて可愛いけれど、もう結婚していて、お嫁さんのもの、という感じがして声をかけるのに躊躇してしまう。
まだフリーな娘の呆れた顔を見ながら、ああ、娘を生んでおいてよかった、としみじみ思う。

「あんた達がいなくなって、あの人の過保護が全部私に向いている気がするの」
「まあねえ」
「でも、あの人みたいに私は出来ないし…だって、出来るわけ無いでしょ?」
「お父さんはデキる人だからね、ホント」

それが仕事では気に入られているみたいだけど、と娘はアイスウーロン茶のストローをぱくり。

「でも、仕事と家庭を一緒にされたくないわ。仕事は上下関係だけど、家族は対等な関係の筈じゃない。出来の悪い部下相手みたいなあの態度!腹立つわよ!」
「まあまあ。ところでお母さん、あの話どうなったの?」
「え?あの話って?」
「もう、忘れちゃったの?結婚指輪を作り替えるって話だよ…」
「…あ」

少し前に夫が言い出した事。すっかり忘れていた。

(お互い、若い頃とは指のサイズも変わっちまったし、結婚指輪、作り替えないか?)

私の薬指、指輪の形に痕が出来ているのよと笑って教えたら、洗濯物をピンチに吊しながら、「今年で丁度俺達結婚して三十年になるから良い機会じゃないか」と夫。
今年で三十年。
私、これも忘れていて、でもそれを悟られないように、そうね、覚えてくれてたのね、なんて返していた。

(でも、刻印はどうするの?)
(もう考えてあるんだ。ハイフンで終わらせるんだよ。これからも、って事でさ)

「…そんなことも、あったわね」
「もう。あれから、私良いジュエリーショップ探したんだから。
丁度明日サロンの予約してあるから、お母さん、一緒に行ってみない?」
どうせお父さんに任せたら、全部お父さんが決めちゃうんだから。
夫の事をよく知っている娘は、コップの中の氷をかき回しながらにやりと笑った。

+++++

宝飾店のサロン、なんてきっと娘がいなかったら知る機会さえなかった。
お店の人が私の前に色々なデザインのリングを並べてくれる。
そんなに予算無いわよ、と小声で言う私に、こういう事言い出す時のお父さんは結構考えてるから大丈夫、と返ってきた。
本当、この娘は私達夫婦の事をよく分かっている。

「あ、ねえねえ、これ、なあに?」
「ちょっと、お母さん。全然結婚指輪と関係ないじゃない、それ」
「でも、すごく綺麗。私の好きなブルーが全部入ってるわ」
「…そのパヴェに目がいくなんて、やっぱりお母さんの目って肥えてるね。全然宝石のこと知らない癖にさ」

それから娘はそこにはめ込んである小さな石一つ一つの名前を教えてくれた。

「これが有名なサファイア、色々なブルーのトパーズでしょ、濃い菫色はアイオライト、…で、最後に水の色のアクアマリン。お父さんの誕生石」
「えっ」
「船乗りのお守り石なんだって。海を越えてばっかりいるお父さんには、ぴったりの石だよね」

ニヤニヤとした顔で娘が言う。
私は何だか気恥ずかしくなったけど、そのリングを手放す気にはなれなくて、…結局、買ってしまった。
工房でお客様に合わせて一から作りますよ、とお店の人が言うので、届くのはもう少しかかるらしい。

「でも、ずっと日本にいる私が着けていても、ねえ」
「気に入ったんだから、いいじゃない。…それに、いずれ分かるよ」

―――――お母さんの指に、あれがあった方が良い理由。

そう言う娘の手にはスマートフォン。
誰かと連絡でも、取っているのかしら?

+++++

帰ってきたあの人が、ぽつりぽつりと言う。

「…向こうの人が、今度お前を連れてこいってさ。何か、俺のかみさんが、見たいんだと」
「招待されたの?」
「うん。俺がどんな人に支えられてきたのか、とか聞かれてさ、困っちゃったよ」

少し恥ずかしそうに、こちらを向くことなく。
いつになるの、と私が聞けば、それは指輪が届く次の日だった。

今まで海を越えた事のない私が、この人と一緒に海を越える。
そんな私の指先に、輝く海の色が、水の色のアクアマリンが来る。
きっとそれは意気揚々と言ってくれるだろう。

(いざ、航海の時!)

…そんな事を思ってたら、怒っていた事が何もかも馬鹿らしくなってきて。
私の口からは、自然と言葉が溢れてきた。



「おかえりなさい。…あなた」

今度の海は、あなたと共に。


<参考商品>
TR-537-MC5.jpg 「アルルカン」第6弾マルチカラーパヴェリング“エーゲ海”

最終更新:2013/05/14 12:01

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